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浦和地方裁判所 平成5年(わ)756号 判決 1993年12月20日

本店の所在地

埼玉県蕨市南町四丁目二五番九号

代表者の住居

同所

株式会社角之上業務店

代表者の氏名

角之上敬蔵

本籍

鹿児島県鹿児島市東谷山一丁目一五六一番地

住居

埼玉県蕨市南町四丁目二五番九号

会社役員

角之上敬蔵

昭和九年四月一一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官原秀樹及び弁護人時友公孝各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社角之上業務店を罰金八、〇〇〇万円に、被告人角之上敬蔵を懲役二年六月にそれぞれ処する。

被告人角之上敬蔵に対し、この裁判が確定した日から五年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社角之上業務店(以下「被告人会社」という。)は、昭和四九年七月八日、埼玉県蕨市南町四丁目三番三四号(昭和五四年一二月一日、「同所二五番九号」に変更)に本店を置き、資本金一五〇万円の有限会社として設立され、左官工事等を営み、平成四年八月八日、資本金一、二〇〇万円の株式会社に組織変更された会社であり、被告人角之上敬蔵(以下「被告人角之上」という。)は、被告人会社が設立されて以来、その代表取締役として業務の全般を統括していたものであるが、被告人角之上は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の賃金や外注工費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  平成二年八月三〇日、埼玉県川口市西川口四丁目六番一八号所在の所轄の西川口税務署において、同税務署長に対し、被告人会社が平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までの事業年度に納付すべき法人税について、同事業年度における実際の所得が二億六、三九一万四、六七七円であったのに、これが四、三二五万二、九〇三円で、これに対する法人税額が一、六三九万五、八〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出してその納付期限を過ごし、もって、不正の方法により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額の一億四六六万六〇〇円と右申告税額との差額の八、八二六万四、八〇〇円の法人税を免れ、

第二  平成三年八月三〇日、同所において、同税務署長に対し、被告人会社が平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度に納付すべき法人税について、同事業年度における実際の所得が三億四、〇五一万九、二八三円であったのに、これが五、〇四八万七、九一〇円で、これに対する法人税額が一、八一六万一、九〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出してその納付期限を過ごし、もって、不正の方法により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額の一億二、六九二万三、九〇〇円と右申告税額との差額の一億八七六万二、〇〇〇円の法人税を免れ、

第三  平成四年八月三一日、同所において、同税務署長に対し、被告人会社が平成三年七月一日から平成四年六月三〇日までの事業年度に納付すべき法人税について、同事業年度における実際の所得が三億七、〇八七万六、三一四円であったのに、これが七、六七七万九、九七三円で、これに対する法人税額が二、八〇一万四、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出してその納付期限を過ごし、もって、不正の方法により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額の一億三、八三〇万八〇〇円と右申告税額との差額の一億一、〇二八万六、四〇〇円の法人税を免れた。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人角之上の当公判廷における供述

一  被告人角之上の検察官に対する平成五年七月三〇日付及び八月四日付各供述調書

判示冒頭の事実につき

一  浦和地方法務局戸田出張所登記官作成の登記簿謄本二通

判示第一ないし第三の事実につき

一  被告人角之上の大蔵事務官に対する供述調書二二通

一  角之上ユリ子及び服部茂盛の検察官に対する各供述調書

一  中川雄次(三通)、角之上ユリ子(四通)及び服部茂盛(四通)の大蔵事務官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  西川口税務署長作成の回答書二通

一  大蔵事務官作成の各調査書一〇通及び預貯金調査書合計表二通

一  被告人会社ほか一名及び中川雄次作成の各答申書

一  被告人会社代表取締役被告人角之上作成の上申書

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書、修正貸借対照表、脱税額計算書及び法人税査察更正決議書(平成二年六月期分)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書、修正貸借対照表、脱税額計算書及び法人税査察更正決議書(平成三年六月期分)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の修正損益計算書、修正貸借対照表、脱税額計算書及び法人税査察更正決議書(平成四年六月期分)

(法令の適用)

被告人角之上の判示各行為は各事業年度毎にいずれも法人税法一五九条一項に、被告人会社については、更に同法一六四条一項にそれぞれ該当するところ、被告人会社については、情状に鑑み、同法一五九条二項を適用し、被告人角之上については、所定刑中、いずれも懲役刑を選択し、各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については、同法四八条二項により、右脱税額を合算し、その金額の範囲内で罰金八、〇〇〇万円に、被告人角之上については、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い第三の罪の所定刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役二年六月にそれぞれ処し、被告人角之上に対しては、同法二五条一項を適用して、この裁判が確定した日から五年間、その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件各犯行は、被告人角之上が三事業年度にわたり、架空の外注工賃や賃金を計上し、雑収入の一部を除外する方法によって行ったものであり、その脱税額が多額に達したこと、ほ脱率が極めて高いこと、これに伴い、多額の蓄財をしてこれを私的に隠匿したこと、そのために日頃から偽りの書類を作成して準備したことなどを併せ考えると、事案は悪質で、被告人らの罪責は重いというほかない。

他方、本件各犯行については、被告人角之上が景気の波が激しい被告人会社の業界の状況を考え、将来に備えた資金や実質的には従業員と同視しうる長年の外注先への退職金ないし労災補償金を確保したい思いに駆られてこれに及んだ様子が窺われること、被告人会社は、本件各犯行が発覚したことにより、昭和六三年度に遡って五事業年度の修正申告を行い、不足税のほか多額の重加算税や延滞税を課せられ、この間の所得の大部分を失い、隠し資産を合わせても負債超過の状態となるに至ったこと、被告人角之上は、これまで処罰されるようなことはなく、勤勉一筋に過ごしており、本件により、多額の付加税を課せられたうえ、審理を受け、相当に反省、侮悟している様子が認められ、すでに被告人会社の経営を長男に譲り、自らは経理の適正に努める旨述べていること、被告人会社は、すでに不足税を納め、今後、付加税を納めることになるところ、最近、不況の影響で請負工事が激減している様子が窺われること、被告人角之上が現在、肝硬変をわずらい、妻も五年位前に脳血栓で入院し、ともに通院加療中であること、その他、同被告人の年齢の程など斟酌すべき点も存する。

これらの事情を総合考慮した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩垂正起)

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